音盤紹介:クナッパーツブッシュによるブルックナー/交響曲第5番
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音楽のこと
さらにクナッパーツブッシュのブルックナーが続きます(^^;。
今回は交響曲第5番。
クナッパーツブッシュには、
第5番では2種類の演奏録音が残っています。
1956年、DECCAへのウィーン・フィルとのセッション録音
1959年、ミュンヘン・フィルとのライヴ録音
オーケストラの音色の違いやライヴ録音の緊迫感はありますが、
基本的な解釈は2つの演奏録音ともほぼ同じです。
今回もまた、DECCA盤を取り上げます。
うれしいことに、ステレオ録音(^^)。
クナッパーツブッシュの第5番は、
フランツ・シャルク版(いわゆる初版)による演奏です。
おそらく、一般的なハース版、ノヴァク版(この二つの版はほぼ一緒です)と、
クナッパーツブッシュの使用したシャルク版を聞くと、
部分的に「え?違う音楽なんじゃないの?」と
思われる方も少なくないと思います。
テンポや楽器の使い方はまるで違いますし、
第4楽章など、あれあれ?と思うほど異なります。
店長が最初に聞いた第5番は、
マタチッチ盤(確かチェコ・フィル)かヨッフムの新全集盤です。
最初はうかつにも気が付かなかったのですが、
クナッパーツブッシュ盤の冒頭のテンポは意外にも速めです。
通常、アダージョで演奏される冒頭部が、
まるでアンダンテのようなテンポです。
この冒頭ですでに、
一般的な演奏とは違うことが分かります。
例えば、最近の録音ではティーレマンの同曲冒頭を聞くと、
なんだかお化けがで出てきそうな雰囲気ですが、
クナッパーツブッシュ盤はしっかりとした足取りで開始され、
いきなり、吹き上げるような、
あるいはそそり立つような最初のクライマックスを迎えます。
ギクシャクして聞こえるような箇所もありますが、
ブルックナーの音楽はそれほどつながりのいい音楽ではありません。
むしろ、ブルックナーの朴訥さと抒情がしっかりと聞こえてくるようです。
もうひとつ、クナッパーツブッシュの演奏の特徴は、
シャルク版であることが大きいのですが、
自然(ここでは鳥たちやカエルの鳴き声)の模倣を、
あるべき姿で現していることです。
多くの他の指揮者による演奏録音は、
この自然の模倣がへんちくりんに聞こえるためか
(シャルク版とハース盤やノヴァク版の違いは大きいものの)、
なんだかうやむやにして、
荘厳さや抒情の中に目立たなく塗り込んでしまうようなあいまいさがありますが、
クナッパーツブッシュはユーモアたっぷり、
また楽曲がいかに深刻で、
抒情味たっぷりな部分でも、
その時々の楽想とは関係なく、
遠慮なく鳥たちやカエルが鳴きます。
この自然の模倣音が際立つのが第4楽章です。
ベートーヴェン/交響曲第9番第4楽章の最初のように、
以前の楽章の楽句を「あれでもない、これでもない」と、
難癖をつけるような形で自然の模倣音が突拍子もない形で否定し、
やがて、
その自然の模倣音が拡大して巨大なクライマックスを築いてゆくのですが、
ここまで徹底してそのことをあからさまに演奏しているのは、
シャルク版のクナッパーツブッシュ盤が随一です。
シャルク版スコアは、
その自然の模倣音が際立つように改訂してありますので、
なおさら、その面白さが際立ちます。
いきなり第4楽章の話になってしまいましたが、
第1楽章からクナッパーツブッシュ盤は間然とすることなく、
意外と早めのテンポで、それでも重く第5番を演奏してゆきます。
第2楽章の叙情とドラマティックな盛り上がり、
第3楽章の楽しさとトリオの美しさ、
そして、第4楽章最終部の金管楽器を増やしての壮大なクライマックスなど、
版の違いを越えてクナッパーツブッシュ盤は迫ってきます。
たぶん、ブルックナー/交響曲第5番を聞くためには、
ノヴァク版のヨッフムや、
ハース版のヴァントなどから聞き始めた方がよいのかもしれません。
でも、特殊な版ではあれ、
第5番の一面の真理をついたともいえるシャルク版による
クナッパーツブッシュの演奏録音は、
別格のような風格と面白さを備えていると思えるのでした。
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