音盤紹介:クナッパーツブッシュにるブルックナー/交響曲第3番
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音楽のこと
少し前にクーべリックのブルックナー/交響曲第3番を取り上げましたが、
その後、同曲をあれこれ聞きたくなり、
棚を物色、
いろいろとCDプレーヤーに入れて聞きました。
その中で、
版の違いこそあれ、自分に一番ぴったりくる演奏録音は、
やはり、ハンス・クナッパーツブッシュの演奏録音でした。
クナッパーツブッシュの同曲には、
全部で5種類のセッション録音とライブ録音が残されていて、
どれも素晴らしいですが、
今回は一番ポピュラーな録音、
1954年のDECCAのセッション録音を取り上げます。
実は、残っているクナッパーツブッシュのブルックナー/交響曲第3番では、
もっとも古い録音がDECCA盤です。
その他はライヴ録音ですが、
いずれも素晴らしいものばかりで、
特に最晩年、
1963年のミュンヘン・フィルとの録音は、
涙なくしては聞けない演奏録音です。
店長はレコード時代、
廉価版で出ていたキングレコードの1954年セッション録音のLPを購入、
第2楽章を聞いて大きく戸惑いました。
第2楽章は空中を飛ぶ昆虫や、
川の中の魚が、
いきなり方向転換をするような楽句があり、
「針飛びか?」と勘違いするほどでした。
他の演奏録音で同箇所を聞き(ベーム盤ですね、たぶん)、
針飛びではないということが分かってホッっとしましたが、
楽曲自体をまったく知らない頃ですので、
クナッパーツブッシュの同曲のレコードは少し敬遠傾向になってしまいました。
そのため、
クナッパーツブッシュの同曲を安心して頻繁に聴くようになったのは、
CD時代になってからです。
ところが、
その第2楽章を最も魅力的に表現しているのが、
数々のクナッパーツブッシュ盤であることを知ったのは、
CD時代になって、いろいろな指揮者による演奏録音を聞いてからでした。
クナッパーツブッシュの演奏に使用している版は、
晩年の交響曲第8番の大規模な改訂時期と同じころの版(1889年版)で、
最終改訂版によっています。
弟子たちの手も入っていると言われていますが、
この最終改訂版での初演は大成功を収めました。
この他に第3番の版としてエーザー版や第1稿がありますが、
第1稿を聞いてみると、ブルックナーの自然への敬慕、
宗教心が非常に素直に表現された音楽であることが分かります。
もともと第1稿にはワーグナーの楽曲からの引用もあり、
ワーグナーに献呈されたことから、
交響曲第3番「ワーグナー」と副題を付けられることもあるのですが、
ブルックナーは改訂のたびにワーグナーの引用を削ったため、
最終改訂版やノヴァク版を聞くと、
「どこがワーグナーなんだろう?」と、
首をひねる結果になってしまいました。
その第2楽章は天国的な美しさと優しさ、
そしてスケールの大きな威厳に満ちた音楽にたどりつき、
最後は平和で穏やかな音楽に戻ってゆきます。
最初は「針飛び」と思ってしまった音楽が、
非常に美しい自然界の音による表現であることを、
クナッパーツブッシュの演奏録音は如実に分からせてくれます。
あまり小細工をせず、
つながりにくい楽句をそのまま提示したからだと思いますが、
この効果は、
様々な他の指揮者の演奏録音を聞いて、
もう一度この演奏録音に戻ると、
ようやく分かる類のものかもしれません。
クナッパーツブッシュの第3番の演奏録音を初めて聞くと、
全体的に「なんだかギクシャクしているなぁ」と思ってしまうのですが、
ブルックナーの音楽は元々つながりがいいと言える音楽ではありませんので、
何度も聞きこむうちに、
この演奏録音が一番自然に聞こえてしまうから不思議なものです。
夏の夜に、
ブルックナーの描く天上世界に浸るのも、
悪くないですね。
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