訃報:ピエール・ブーレーズ
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音楽のこと
フランスの作曲家・指揮者ピエール・ブーレーズが1月5日、
亡くなりました。
もうすぐ91歳になるところでしたから、
かなりの長命でした。
ブーレーズは、
店長がクラシックを聞き始めたころから指揮者として活動を始め、
ごく最近までマーラー交響曲全集やラヴェル管弦楽曲集、
さらにはブーレーズとは遠い印象のある
ブルックナー/交響曲第8番をセッション録音して、
店長もそれらを聞いていますから、
追いかけるのは途中で止めましたが、
長期間、何らかの形で聞いてきた指揮者だといえます。
まず、レコードで、
ストラヴィンスキー/「火の鳥」(1911年組曲版)、
バルトーク/「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」の
カップリングから聞き始め、
その前に録音されていた、
フランス国立放送管弦楽団とのコンサートホール盤「春の祭典」、
ヘンデル/「水上の音楽」を遡って入手、
さらに、CBSに録音した、
ドビュッシー/「海」を中心とした管弦楽曲集、
クリーヴランド管弦楽団とのストラヴィンスキー「春の祭典」、
そして、1968年に録音された、
ベートーヴェン/交響曲第5番などを聞いていました。
さらにブーレーズは、
1970年、万博クラシックの時に、
ジョージ・セル、クリーヴランド管弦楽団と共に来日、
店長はブーレーズの大阪公演を全てフェスティバルホールで聞きました。
指揮棒を持たないブーレーズの指揮姿はカッコ良かったです。
アイヴス/「ニューイングランドの3つの場所」の左右で違う拍を取ったり、
ドビュッシー/「海」での片手一閃、聞き手に波をかぶせるような効果、
ストラヴィンスキー/「火の鳥」組曲版終曲での、
刺激的な打撃音
(フェスティバルホールにかすかな驚きの声が上がったのでした)などなど、
思い出は多いです。
ブーレーズは、元々現代音楽の作曲家で、
「オペラ座を爆破しろ」とか、
「シェーンベルクは死んだ、メシアン万歳!」
等の過激な発言や現代音楽の理論書など、
刺激的な存在でした。
後にパリでIRCAMを設立、
現代音楽の実験や普及に貢献しました。
1963年頃から、
古典音楽を指揮したレコードが出始めるのですが、
当時、そして、それ以降のブーレーズが出すレコードは、
それ自体が「事件」といえるほど刺激的で、
レコード雑誌などでは、
その都度賛否両論が巻き起こりました。
録音も優秀でした。
その中で喧々諤々とした議論を呼んだのは、
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団との、
ベートーヴェン/交響曲第5番と、
カンタータ「海の静けさと幸ある航海」のカップリングされたレコードでした。
ベートーヴェン/交響曲第5番の演奏録音は、
それまでのステレオタイプの「運命」像をぶち壊すほど刺激的でした。
有名な「ジャジャジャジャーン!」の冒頭から、
遅いテンポのまるで機械仕掛けの第1楽章で、
それまで聞いていた「運命」とはまるで異なっていました。
また第3楽章も異常に長く、
第4楽章はオーケストラが通常の演奏に引っ張られた形になってしまいますが、
ピッコロが変にしっかり聞こえたり、
じっくりとしたトゥッティの爆発は充分刺激的でした。
「運命」が賑やかに終わった後の、
カップリングされている「海の静けさと幸ある航海」の静けさは、
「運命」とはまた異なるベートーヴェンの姿を垣間見させくれました。
ブーレーズは、
レナード・バーンスタインの後を継いで、
ニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督に就任、
さまざまなレコードをリリースしました。
同時に、当時画期的だったバイロイトでのライヴも、
「パルジファル」、
そして「ニーベルングの指環」全曲の映像、演奏録音とも出ています。
その後、ニューヨーク・フィルを離れると、
CBSから主なレコードリリースをドイツ・グラモフォンに移し、
それまでのレパートリーの再録音を始めます。
そして、マーラー/交響曲全集をセッション録音する頃から、
好々爺的な風貌になってゆきましたので、
若いクラシック・ファンの方は、
ブーレーズがそれほど刺激的な存在であったとは思えないかもしれません。
ブーレーズがドイツ古典音楽に対したアプローチは、
「ドラマの排除」でした。
DGに録音したマーラーやR.シュトラウスでもそうなのですが、
ブーレーズは音楽に内在する(あるいは想像を喚起させる)ドラマを排除、
音楽の骨格を顕わにしてゆきます。
ドラマを排除された音楽には物足りない面もあり、
好悪が分かれたようなところがありますが、
なぜ、ブーレーズがドイツ音楽からドラマを排除していったのか、
第2次大戦後のフランスにおける文学や哲学の運動と重ね合わせて考えると、
なるほどと思える部分が多々あります。
ブーレーズは1925年生まれですから、
10代から20代にかけての多感な時期に戦争を経験しています。
フランスにおいての文学や哲学の「ドラマの排除」運動は、
第2次大戦の悲惨な経験を二度と繰り返さない方法のひとつでした。
ブーレーズが90歳で亡くなったという記事はショックでした。
店長には、
ブーレーズは「永遠の青年」のイメージがありましたから尚更です。
いつまでも若い(といっても40代から50代ですが)と捉えていました。
それは店長の錯誤なのですが。
最近は棚の肥やしになっているブーレーズの録音を、
あれこれ引っ張り出して聞いてみようと思います。
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