音盤紹介:クレメンス・クラウスによるR.シュトラウス「ツァラトゥストラはかく語りき」
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リヒャルト・シュトラウスを取り上げましたので、
続けてさらにリヒャルト・シュトラウス。
交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」です。
「ツァラトゥストラはかく語りき」が有名になったのは、
スタンリー・キューブリック監督の映画、
「2001年:宇宙の旅」でした。
「ツァラトゥストラはかく語りき」冒頭が映画の最初に流れ、
一気に映画の中に引きずり込まれました。
店長はSFが好きで原作者アーサー・C・クラークの本も読んでいましたので、
「2001年:宇宙の旅」をまったく違和感なく見ることができましたが、
人によっては「訳のわからない映画」の代名詞になってしまったようです。
「ツァラトゥストラはかく語りき」の全曲盤というと、
当時はカラヤン指揮ウィーン・フィルのDECCA盤くらいしか入手できませんでした。
カラヤンはその後2度、ドイツ・グラモフォンに同曲をセッション録音していますので、
3種類ある同曲録音の最初の録音です。
「2001年:宇宙の旅」で「ツァラトゥストラはかく語りき」は大ブレーク
(といっても冒頭部分だけですが)、
全曲盤の録音が次々に出て、
エルヴィス・プレスリーのショーのオープニングテーマに使われたり、
何か壮大な物語の最初の映像に使われたり、
フュージョンに編曲されたりしました。
でも、超有名になった冒頭部のあとを聞いた人は...
当時も今も、案外少ないのかもしれません。
店長も非常に多くの「ツァラトゥストラはかく語りき」を聞いてきました。
カラヤンの3種あるセッション録音はみな素晴らしいですが、
印象に残っているのは、
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキがユースオーケストラを振った録音、
クラウス・テンシュテットのEMIセッション録音などです。
さらに楽曲として大変聞き応えがあったのが、
今回取り上げる、
クレメンス・クラウス指揮ウィーンフィルの1950年の古い録音です。
もちろんモノラルで、ハイファイではありません。
クレメンス・クラウスはリヒャルト・シュトラウスの、
弟子のような位置にありました。
ナチ政権下、ヒトラーのお気に入りで、
フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュとは、
不倶戴天の敵同士のような関係にありました
(ただし、ナチには入党していません)。
残念なことに日本でも戦後、「ナチ協力者」のレッテルが貼られ、
あまり評価されませんでした。
でも、クレメンス・クラウスは指揮者としては大変優れた技量の持ち主で、
当時の同時代音楽(現代音楽ですね)のよき理解者でもありました。
特にオペラや標題音楽の指揮は抜群に上手く、
同じオーストリア出身のカラヤンとよく似たテンペラメントを持っています。
クラウスはウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートの創始者でもあります。
クラウスは師匠であったリヒャルト・シュトラウスのオペラの多くを初演、
また管弦楽曲も数多く録音に残しました。
どれも大変優れた演奏録音です。
長い間、元のDECCA盤は廃盤状態で(最近、ボックスで復活しています)、
なかなかクラウスのリヒャルト・シュトラウスは聞けない状態でしたが、
かなり以前の話になってしまいましたが、
イギリスのTESTAMENTがディストリビュート、
店長などは喜んでそのリリースされたCDを買ったクチです。
「ナチ音楽家」などと陰口を叩かれるクラウスですが、
どういう指揮者であったのか、
やはり知っておく必要がありますし、
少しずつ聞けていたその優れた音楽に、
ただ、批判だけするのは簡単で、実際に聞いてみないと、
その実情はよく分からないままになってしまうからでもあります。
それに、クラウスは戦後ウィーン国立歌劇場音楽総監督の座を、
カール・ベームと争うほど、オーストリアでは復活していました。
クラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」冒頭は、
それほどスペクタクルではなく、どちらかというと地味です。
音もあまり良くありませんし...。
ところが、音楽が主部に入り、ツァラトゥストラの冒険が
(ニーチェの哲学書も、ツァラトゥストラの冒険譚のようなところがあります)
めくるめくように展開してゆきます。
非常にグラマラスな音楽で、
リヒャルト・シュトラウスがなぜクラウスを大事にしたのか、
分かるような演奏録音になっています。
「ツァラトゥストラはかく語りき」自体、
分かりにくい音楽ではありませんので、
クラウスの面目躍如、冒頭こそしょぼいものの、
その後の音楽は非常に優れた聞きものになっています。
TESTAMENT盤には、
同じリヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」がカップリングされており、
これもまたひじょうな聞きものです。
DECCAのボックスはTESTAMENTのクラウス・シリーズよりも収録曲が多く、
「買い直そうか?」とも考えてしまいますが。
マイケル・H・ケイターという研究者の著作に、
「第三帝国の音楽家たち」(アルファベータ社に邦訳あり)という面白い本があります。
ナチに対しては無論、カナダの研究者ですので否定的ですが、
クレメンス・クラウスに関してはかなり同情的です。
単に「ナチ音楽家」というレッテルを貼り付けてそれで終わり、
というのは、ひじょうにもったいない指揮者だと思います。
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