音盤紹介:クナッパーツブッシュによるワーグナー/「ローエングリン」第一幕への前奏曲
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音楽のこと
ワーグナー/「ローエングリン」は、
ワーグナー最後のオペラとなった「パルジファル」の後日譚です。
後日譚の方が先に作曲されてしまったわけですね。
ローエングリンはパルジファルの息子で、
その出生を隠して出現したことから、
話が始まります。
「ローエングリン」もやっぱり悲劇で、
自分の出生を明かしたローエングリンは愛するエルザの元を去り、
可哀想にエルザは死んでしまいます。
ただ、オペラ「ローエングリン」は、
敵役フリードリヒと、
それに輪をかけたフリードリヒの妻オルトルートの悪役ぶりが巧みで、
ひじょうに面白いオペラになっています。
「エルザの大聖堂への入場」、
「婚礼の合唱」など有名な旋律も多く、
第三幕への前奏曲は「ワルキューレの騎行」と並んで、
輝かしい響きで勇ましく、
オーケストラ小品集などに収録されることの多い楽曲です。
オペラ全曲の録音としては、
ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮バイロイト祝祭歌劇場の
1962年ライブ盤を古くから聞いてきました。
その他、カラヤン盤、ルドルフ・ケンペ(ウィーン・フィル盤)盤などでしょうか。
ロヴロ・フォン・マタチッチのライヴ盤もありますが。
サヴァリッシュ盤ではアストリッド・ヴァルナイのオルトルートが聞きもので、
ブリュンヒルデやゼンタなどのヒロインを歌うヴァルナイとはまた違う、
性格俳優のような歌声が凄いです。
ただ、「ローエングリン」の、
特に第一幕への前奏曲が難物で、
この最初の楽曲で納得できなければ、
後のオペラ本体は著しく興を殺がれてしまうことになります。
実は、上記以外の、それまで大好きだった指揮者の全曲盤を聞き、
第一幕への前奏曲でガックリきてしまい、
その指揮者への関心が急激に薄れてしまって、
けっこうたくさん持っていたその指揮者のコレクションを
処分してしまったことがありました。
そのため、
「ローエングリン」第一幕への前奏曲は、
全曲盤にしても管弦楽曲集にしても、
初めて聞く場合はおっかなびっくりです。
今まで夥しく聞いてきた
「ローエングリン」第1幕への前奏曲の録音で、
最も大好きな演奏録音は、
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団との1947年DECCA録音と、
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の1962年WESTMINSTER録音です。
同じ指揮者ながら、双璧です。
ただ残念ながら、
1947年盤は、
LPやCDではDECCAレーベルやLONDONレーベルのものは未だ聞けず、
CDでは他レーベルによるSP復刻盤ばかりです。
元になるSPは2度ほど、
東京新橋にあった「ベルラン」というレストランで、
聞かせていただいたことがありました。
いい思い出です。
クナッパーツブッシュの、
ふたつの古い録音がなぜよいのかというと、
響きがクリアで、音楽が澄み、ほとんど濁りがないからです。
聖なる国からやってきたローエングリンそのままの、
透明で美しい響きが、
クナッパーツブッシュの二つの録音から聞くことができます。
音楽は緩やかに静かに始まり、
かなり盛り上がって、
また、静かな音楽に戻りますが、
多くの指揮者は、音楽がなぜ盛り上がるのか、
たぶん理解できていないのです。
そのため、変に情動的な演奏や、
トゥッティであまりに盛り上げすぎ、
音楽の持つ、
ごく自然で透明な響きが損なわれてしまっている演奏録音が多いと感じます。
聖なる音楽がまったく違った音楽になってしまっていることが多いです。
クナッパーツブッシュの演奏録音は、
そのような不満がまったく出ないというか、
真摯に聞くと、
「ローエングリン」第一幕への前奏曲はこういう音楽であったのか…
ということが理解できます。
1947年盤はクナッパーツブッシュが第2次世界大戦後、
非ナチ裁判で無罪になった後、復活してまだ間のない頃の録音で、
DECCAへの最初の録音のうちのひとつです。
ひじょうに湿った響きの、
鎮魂曲のようにも聞こえる演奏録音です。
1962年盤は、
クナッパーツブッシュの晩年の録音で、
ステレオで録音され、
おそらくこれ以上の「ローエングリン」第一幕への前奏曲はないだろう…
といえる高みにある演奏録音です。
ずっと、その音楽に浸っていたい…
と思わせる稀有の名演です。
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