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音盤紹介:クナッパーツブッシュによるワーグナー/「さまよえるオランダ人」

公開日: : 最終更新日:2014/09/13 音楽のこと

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ワーグナー/「さまよえるオランダ人」は、
ワーグナーの初期に属するオペラですが、
傑作を次々と生み出すメルクマールともなった作品です。
ワーグナーがまだ若い頃、
ドイツで革命騒ぎが起こったとき、
ワーグナーはドレスデン蜂起で旗振り役を演じ、
お尋ね者になってしまいました。
各国を転々としていた時期、
フランスで成功していた作曲家ジャコモ・マイヤベーヤを頼ってパリに出、
「さまよえるオランダ人」を作曲します。
しかし、パリでは「さまよえるオランダ人」は受け入れられず、
結局、ドイツを追われる元になったドレスデンで初演されました。
「さまよえるオランダ人」の前作は「リエンチ」という長大な作品ですが、
その凝縮力、密度の濃さなど、
圧倒的に「さまよえるオランダ人」でワーグナーは化けたな…
と思わせます。

「さまよえるオランダ人」は全幕を通して演奏されることが多いですが、
これはワーグナーの構想にもあったことのようです。
ただ当時、長尺のオペラを一気に演奏することは演出、演奏上からも難しく、
ドレスデン初演時に3幕版に書き直しています。
その後、ワーグナーはライプツィヒ版で構想通り全幕通しに改訂、
通しで演奏されることが普通になり、
現在に至っています。
現在聞けるレコードやCDは、
一部にドレスデン版での演奏録音もありますが、
多くはライプツィヒ版の、
ワーグナー自身が改訂した改訂版です。
ワーグナーの改訂の理由のひとつとして、
「さまよえるオランダ人」はドレスデン初演時にあまり受けがよくなかった、
ということもあったようです。

レコード時代、オットー・クレンペラーの
クレンペラー自身による折衷版のレコードを持っていましたが、
強奏でわが貧弱なオーディオは音割れを起こしてしまい、
それがイヤで何度も聞いたという記憶がありません。
何よりクレンペラー盤にはドレスデン版を踏襲したため(あくまでクレンペラー版です)、
「救済」がなく、
ちょっと引っかかっていたということもいえるかも知れません。
その後、一時期にかなりの数の「さまよえるオランダ人」全曲盤を聞いたため、
クレンペラーの次に聞いた「さまよえるオランダ人」が誰の指揮のものであったのか、
情けないことに思い出せません。
コンヴュチニー盤、カイルベルト盤、ベーム盤、クレメンス・クラウス盤、
サヴァリッシュ盤、ネルソン盤などいろいろと漁りましたが、
店長がもっとも「さまよえるオランダ人」に相応しいと感じるのは、
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮バイロイト祝祭歌劇場での、
音の悪い1955年ライヴ録音です。

1955年、バイロイトでの「さまよえるオランダ人」は
数回の公演を指揮者が二人で分け合い、
クナッパーツブッシュともう一人の指揮者はヨーゼフ・カイルベルトでした。
カイルベルトの公演はDECCAのスタッフによって正規録音され、
TELDECからリリースされましたが
(後にTESTAMENTからもステレオでリリースされました)、
クナッパーツブッシュの録音は正規にはなく、
放送録音だけだったようです
(ORFEOから正規の形で出ましたが、放送音元と似たりよったりの音です)。
店長は、そのカイルベルト盤とクナッパーツブッシュ盤を聞き比べました。
カイルベルト盤は音がよく、
演奏は質実剛健、まじめなよい演奏です。
ただ、表現という意味では圧倒的にクナッパーツブッシュ盤が凄かったです。
序曲からして、かなりの差となって現れてきます。
両方とも主な歌手はヘルマン・ウーデとアストリッド・ヴァルナイですが、
歌手の呼吸にしやすさ、ドラマへの没入度、
そして何より管弦楽のうねり具合がまったく異なります。

もっとよい音でクナッパーツブッシュの「さまよえるオランダ人」を聞きたいなぁ…
という、ないものねだりをしてしまうほど、
クナッパーツブッシュの「さまよえるオランダ人」は凄いです。
ライヴ録音特有の演奏の傷は散見しますが、
「さまよえるオランダ人」を聞いてみるなら、
まずステレオ録音の音のいい演奏録音を聞いてからでもOKですので、
クナッパーツブッシュの演奏録音に
是非触れてほしいと思います。

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