アナログ録音とデジタル録音の端境期、
いろいろなLPが出ました。
CDが一般化する前のデジタル端緒期には、
少し音が薄いかな...というLPもありましたが、
デジタル録音のLP化されたものは、
けっこういい音がしていたものです。
その中に、
ベルナルト・ハイティンク指揮
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
(現ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)の、
一連のPHILIPS盤があります。
CDの発売を見越したからか、
全集魔ともいえるハイティンクが、
全集とは別に録音したいくつかの録音です。
前に取り上げたことのある、
ベートーヴェン/交響曲第9番(1980年録音)もそうですが、
マーラー交響曲全集とは別に、
交響曲第4番と第7番を録音しました
(第4番は1983年、第7番は1982年録音)。
ハイティンクはこの後、
全集には至りませんでしたが、
ベルリン・フィルとマーラー・チクルスの録音を始めます。
PHILIPSはハイティンクがデビューした当時から1970年代、
当時流行であった「現代的なリベラリズム」にこだわり過ぎたからか、
燕尾服ではなくアロハシャツを着た
リハーサル中のハイティンクの姿を多くのジャケットに採用、
その軽さからか、
日本ではそれほど人気が出ませんでした。
EMIのアンドレ・プレヴィンなどにもその傾向がありましたっけ。
ハイティンクの最初のマーラー交響曲全集バラ売りのジャケットは、
泰西名画の風景画が多く、
それほど抵抗感はありませんでしたが、
コンセルトヘボウ管弦楽団はほぼ同時期に、
ドイツ音楽の重鎮オイゲン・ヨッフムとの録音も多く、
PHILIPSはハイティンクをスターとして売り出したかったにもかかわらず、
なかなかうまくいかなかったという印象があります。
ハイティンクの最初のマーラー交響曲全集のバラ売りも、
いくつか聞いてみましたが、
バーンスタインやショルティの
マーラー録音の陰に隠れてしまったという感じでした。
ハイティンクの柔和な顔立ちも、
「厳しさ」が好きな日本のクラシックファンには、
少し違和感があったのかもしれませんね。
そのハイティンクのイメージを、
「本格的な指揮者」としてひっくり返したのが、
デジタル録音端緒期の、
前述のマーラー/交響曲第4番と第7番、
そしてシューマン/交響曲全集(1981~1984年録音)、
ブルックナー/交響曲第9番(1981年録音)でした。
店長はマーラー/交響曲第7番のLPをまず購入、
その素晴らしく瑞々しい音と演奏の確実さに、
マーラー/交響曲第7番の演奏録音では、
非常に優れたセットだという認識は今も変わっていません。
国内盤LPは輸入盤に日本語帯が付いているという体裁でした。
CDでも出たことがありましたが、
すぐに廃盤になってしまい、
中古盤CDを探してあちこち漁り回るという、
なかなか入手が難しかったという思い出があります。
LPは結婚時に、
LPを大量に処分しなければならず、
泣く泣く手放してしまいましたので、
余計に記憶に残っているのでしょう。
その懐かしいLPを最近中古屋さんで発見、
少し値段が高かったですが、
思い切って買ってしまいました。
中古盤ながら幸い盤面は非常にきれいで、
ピチパチノイズも少なく、
初めて聞いた当時の記憶が蘇ってきました。
マーラー/交響曲第7番のLPは、
その他の指揮者、オーケストラの演奏録音では、
最初のテナーホルンの咆哮で音が割れたり混濁する、
という経験が多々ありましたが、
ハイティンクの当盤では音が割れることもなく自然で、
録音が非常に優秀でオーケストラの音が眼前に拡がり、
第7番というマーラーの比較的ややこしい音楽を、
冒頭から浸りこんで聞くことができます。
第7番では、
テンシュテット(ライヴの方)やアバドの当時の優秀録音に比べて、
刺激的というより、
音楽の表情と成立がよりニュートラルに感じられ、
肩の力を抜いた円熟さというか、
それでいて緊張感をも適度に伴った、
「大人の音楽」として聞くことができます。
ハイティンクは自身の言葉によると、
クラシックレーベルの離合集散時にPHILIPSからリストラされ、
その他のさまざまなレーベルに、
ライヴを中心に録音するようになりました。
ハイティンクは1929年生まれで、
もうすぐ90歳
(ズービン・メータは1936年生まれで、
ハイティンクはメータよりもかなり年長なのですね)、
世界最長老の指揮者です。
その音楽はより安定感を増し、
若い頃のイメージとかなり変わりました。
いつまでも元気でいてもらいたい指揮者のひとりです。