クナッパーツブッシュによるブルックナー/交響曲第3番を取り上げたので、
次は第4番「ロマンティック」(^^)。
クナッパーツブッシュには、セッション録音、ライヴ録音を含めて、
現在3種類の演奏録音を聞くことができます。
1944年、第2次大戦末期のベルリン・フィルとの放送用録音
1955年、ウィーン・フィルとのDECCAセッション録音
1964年、ウィーン・フィルとの最後のコンサートになったライヴ録音
ほぼ10年ごとのクナッパーツブッシュによる「ロマンティック」が聞けるわけで、
どれも貴重な遺産といえます。
今回は前回に倣って、
1955年、DECCAへのセッション録音を取り上げます。
本家DECCAや、日本のキングレコード盤、
板起こしなどあちこちのレーベルから出ていますが、
イギリスTESTAMENTのCDがバランスの良い音で楽しめます。
ブルックナー/交響曲第4番「ロマンティック」は、
日本人が想像する恋愛感情を中心とした「ロマンティック」ではありません。
どちらかというと、
カトリックの総本山であるローマへの憧れというか、
非常に宗教的な意味合いを持った作品です。
そのためスコアを見ると、
十字架音型と呼ばれる音型が頻繁に出てきます。
ブルックナーは交響曲第3番に続いて、
非常に穏やかで明るく平和な心情を「ロマンティック」に込めました
(第1稿の第3楽章はかなり異なりますが)。
「ロマンティック」にも第1稿が残っていて聞くことができますが、
第3番第1稿と同じように極めて宗教的です。
クナッパーツブッシュは、
ウィーン・フィルからローカルで素朴な音を引き出す名人でした。
同時期の他の指揮者によるウィーン・フィルとの演奏録音を聞いても、
クナッパーツブッシュの時のような素朴な音ではありません。
クナッパーツブッシュの、
ウィーン・フィルとのどの演奏録音を聞いても、
この素朴な音が聞けますので、
これは確信犯的にクナッパーツブッシュが狙った音であるといえます。
ウィーン・フィルも、
クナッパーツブッシュの音に対する嗜好が分かっていたようで、
木管楽器の音など、特にその素朴さが聞き取れます。
特徴的なのは「ウィーンの休日」と題された、
ウィンナ・ワルツを中心としたアルバムですが、
「ロマンティック」でも、その素朴さは健在です。
クナッパーツブッシュの「ロマンティック」の特徴は、
そのウィーン・フィルによるローカルで素朴な響き、
人懐っこいメロディの歌わせ方、
自然なテンポ設定でしょうか。
確かに、さまざまなブルックナー演奏が登場した現代、
古臭くなってしまったことは否めませんが(モノラルだし)、
クナッパーツブッシュの狙った、
ウィーン・フィルのヘタウマさ加減のオーケストラの音色を含め、
今聞いても非常に懐かしくなる演奏録音です。
クナッパーツブッシュの最晩年、
1964年のライヴ録音はあちこちでブレーキがかかるように、
ゆったりとしたテンポですが、
1955年盤は「クナッパーツブッシュの遅くて重いテンポ」を期待すると、
肩透かしを食らうほど、そのテンポは自然です。
また、ハース版やノヴァク版と異なる、
レーヴェ改訂版(いわゆる初版)による演奏ですので、
ハース盤やノヴァク版と楽器の使い方が異なるのも聞きものです。
ブルックナーを聞く、
基本のような演奏録音は、
他の指揮者の後年のハース盤やノヴァク版の演奏録音に
移行してしてしまった感がありますが、
店長にとっては、やはりこれが基本になっているようです。