店長は新しい録音も好きですが、
古い録音も大好きで、
ヒストリカル・レコーディング...
といわれる録音も良く聞きます。
最近ではその方が多いかも。
往年のウィーン・フィルのコンサートマスターに、
アーノルト・ロゼという人がいました。
グスタフ・マーラーの妹婿で、
ナチ時代、
アウシュヴィッツ・ユダヤ人強制収容所のユダヤ人オーケストラで有名な、
アルマ・ロゼの父親でもあります。
アーノルト・ロゼはユダヤ人でしたから(マーラーもユダヤ人ですからその妹も)、
娘のアルマも当然ユダヤ人で、
結局ナチの手を逃れられず、
アウシュヴィッツに送られたのでした。
ナチ・ドイツからドイツでの仕事を取り上げられた
指揮者ハンス・クナッパーツブッシュはウィーンで仕事を求めましたが、
ウィーンに着いてまず表敬訪問したのが、
アーノルト・ロゼでした。
ロゼはユダヤ人なので、まずくはないか?
というジャーナリストに対して、
クナッパーツブッシュは
「尊敬するロゼに会いに行って、なぜ悪い」
と答えたそうです。
ロゼの名前を冠した録音は時代のためあまり多くはなく、
いくつかの独奏曲と、
ロゼ弦楽四重奏団の演奏録音がいくつか残っているだけです。
まあ、ウィーン国立歌劇場やウィーン・フィルの当時の演奏録音には、
コンサートマスターであったロゼのヴァイオリンは収録されているわけですが。
ウィーン・フィルやその他のオーケストラが、
弦楽器にビブラートを盛大に採用したのは、
大ヴァイオリニスト、フリッツ・クライスラーからだと言われていますが、
ロゼはクライスラーより前のヴァイオリニストですので、
ビブラートを極力廃したヴァイオリンです。
昨今の古楽器演奏と通じるところがありますね。
ロゼのヴァイオリンを聞くと、
最初は頼りなく聞こえるかもしれません。
でも、一度でもストレートで繊細なロゼのヴァイオリンの音に接すると、
オーディオ的な音の古さを飛び越えて(古い録音ばっかりですから)、
極めて印象的に耳に残ります。
画像のCDには、
アーノルト・ロゼによるバッハや、
ロゼ弦楽四重奏団によるベートーヴェンとともに、
まだヨーロッパが平和であった頃、
1928年録音のヨハン・セバスチャン・バッハ/
2台のヴァイオリンのための協奏曲が収録されています。
同曲では、
アーノルト・ロゼとアルマ・ロゼ父娘のヴァイオリンを聞くことができます。
アルマ・ロゼは厳格な規律と練習で、
アウシュヴィッツではアマチュアがほとんどの、
通常のオーケストラに比べると極めて変則的な楽器のオーケストラを指導、
オーケストラのメンバーを死から救ったのですが、
1928年録音のバッハ/2台のヴァイオリンのための協奏曲を聞くと、
非常に優秀なヴァイオリニストであったことが分かります。
アルマ・ロゼは病気のためアウシュヴィッツで亡くなります。
アーノルト・ロゼの残した数少ない演奏録音は、
他のヴァイオリニストや弦楽四重奏団を聴くときの、
店長にとっては規範になっているようなところがあります。