モーツァルト/「レクイエム」は、
以前にクリスティ盤を取り上げましたが、
今回は名盤中の名盤、
カール・ベーム指揮ウィーン・フィルの演奏録音です。
古楽器演奏でのモーツァルトの録音が主流になっている感がありますが、
ベーム盤はグランドスタイルの、
様式としては古いタイプの演奏録音です。
1971年の録音ですから、
むろん、古楽器での演奏録音が当たり前になるはるか前ですね。
演奏は重厚長大、
実に深く、重い響きがします。
ベームの晩年とはいえませんが(ベームは1981年没)、
かなり年齢を重ねてからの録音で、
テンポが非常にゆったりとしていて、
最初の入祭唱から、
飲み込まれるような感興を持った演奏録音です。
合唱は非常に分厚く、
小規模合唱団のような透明で機能的な合唱ではありませんが、
ベームの重くゆったりとした指揮には非常によく合っています。
独唱者も見事です。
モーツァルトのグランドスタイルの演奏録音には、
ベーム盤の他に、
カール・シューリヒトやヘルマン・シェルヘンの名盤もありますので、
いずれ取り上げたいと思いますが、
録音の良さ、演奏の凄みから、
やはりベーム盤は第一に指を折るべき演奏録音でしょう。
ベームは1894年にオーストリアのグラーツで生まれ、
地元グラーツの歌劇場で指揮者としてデビュー、
その後、ブルーノ・ワルターが音楽総監督をしていた、
バイエルン国立歌劇場の第3指揮者に転出しました。
ベームはワルターの弟子を自認し、
かなり影響を受けたようです。
その後、ワルターの後任ハンス・クナッパーツブッシュの下で働き、
ダルムシュタット市立歌劇場に移り、
さらにドレスデン国立歌劇場の音楽総監督、
ウィーン国立歌劇場の音楽総監督と、
オペラ畑で大きな発展を遂げた指揮者です。
そのため、器楽曲の指揮も優れていましたが、
元々は叩き上げのオペラ指揮者といっても過言ではないと思います。
そのオペラ指揮者としての経験が、
モーツァルト/「レクイエム」という、
声楽を含む作品では大きくプラスに働き、
ドラマティック、かつ深遠な世界の現出に貢献しているとも言えます。
現在、主流である古楽器演奏でのさわやかさはありませんが、
この重々しいモーツァルト/「レクイエム」は一聴以上の価値があると思います。
モーツァルトは「レクイエム」作曲途中で亡くなってしまいますので、
後半は弟子のフランツ・クサーヴァー・ジュースマイヤーによって、
補筆完成されました。
ジェスマイヤー版は、
とかくモーツァルトと異質、といわれますが、
いろいろな版でモーツァルト/「レクイエム」を聞いても、
たぶん、これが一番相応しいのだろうな、と感じています。
聞き易い音楽ではありませんが、
この録音は是非盤でお勧めします。