ベートーヴェン/交響曲第5番って、
最近聞かれるのだろうか?
と疑問を呈しましたが、
ひとつ、大名演の記録を忘れていました。
1969年、ザルツブルク音楽祭での、
ジョージ・セルとウィーン・フィルのライヴ録音です。
第1楽章冒頭、ジャジャジャジャーン!の前に8分休符が置かれ、
たいがいの指揮者はこの休符を無視しますが、
セルは無視しません。
音が聞こえないのに、どうやって?
と思ってしまいますが、
セルの指揮は即物的で、
一発床を蹴ってジャジャジャジャーン!に突入します。
「あ!」っと思うほど、唖然とするような決然とした出だしで、
緊密、かつエネルギッシュな第5番が展開してゆきます。
フィルアップされているエミール・ギレリスとのピアノ協奏曲第3番も、
大変な名演で、
セルのオーケストラであった、
クリーヴランド管弦楽団とは、
また異なる演奏を聞くことができます。
店長は、
今でこそドイツの古い指揮者の演奏録音が大好きで聞いていますが、
元々はセルの大ファンでした。
クラシック音楽のほとんどを、
まずセルの演奏録音で聞いてきたようなところがあります。
他の指揮者の演奏録音を聞いた後にセルを聞いても、
「なるほど、セルだったらこういう風に指揮をするのか」と、
一種リファレンス的な聞き方をさせてくれる指揮者でもありました。
セルはアメリカの楽旅中に第2次世界大戦が勃発、
ヨーロッパに帰れなくなり、
そのままアメリカで指揮活動を行いました。
クリーヴランド管弦楽団を、
世界最高峰のオーケストラに育て上げ、
ベルリン・フィルを率いていたカラヤンが嫉妬するほど、
クリーヴランドの管弦楽団の能力は高いものでした。
1970年の万博クラシックにクリーヴランド管弦楽団と来日した後、
残念ながらセルは亡くなってしまいました。
セルのどの演奏録音を聞いても、
音楽が結晶化しているようで、
多少息苦しさを感じる場合もありますが、
「とりあえずセル」で充分すぎるほど間に合う指揮者でもありました。
近年、セルのヨーロッパでのライヴ録音があれこれ発掘され、
そのどれもがひじょうな高みにあるということは、
凄いことだと思えます。