auditeというドイツのレーベルがあり、
RIAS(アメリカ軍占領地区放送局)による往年の録音が、
いろいろとボックスで出ています。
フルトヴェングラー、チェリビダッケ、クレンペラー、などなど。
そして、わがハンス・クナッパーツブッシュも。
ところが、auditeのRIAS録音シリーズは、
だんだんと販売が終了しているようで、
中には入手難のものも出てきています。
クナッパーツブッシュのボックスは、
幸いにも現在はまだ入手可能のようですので、
ご関心のある方は早めの入手が無難です。
(残念ながら国内盤はすでに販売を終了していますが)
auditeのクナッパーツブッシュ・ボックスは、
1950年から1952年にかけての録音です。
クナッパーツブッシュが62歳になる前の録音が中心で、
第2次大戦後、
ベルリン・フィルへの復活公演やその後のRIAS録音を集めてあります。
シューベルト/「未完成」とブルックナー/交響曲第9番は
セッション録音とライヴ録音両方、
ポピュラーな小品(チャイコフスキー/「くるみ割り人形」組曲も含まれています)、
ブルックナー/交響曲第8番、
そして、ベートーヴェン/交響曲第8番と、
かなり重量級の曲目、演奏が並んでいます。
auditeボックスに収録されている演奏録音は、
以前、他のレーベルからもLPやCDが出ていましたが、
auditeボックスは、
音的には最も信頼できるCD化ではないかと思います。
クナッパーツブッシュは第2次大戦後、
アメリカ軍の占領地区にいたほかの指揮者ともども、
ナチではないか?というブラックリストに載せられ、
「非ナチ化裁判」を受けることになりました。
1946年、クナッパーツブッシュは無罪になり、
1947年から活動を再開しています。
ベルリンへは、1度、ベルリン州立歌劇場管弦楽団に客演していますが、
ベルリン・フィルへの客演は遅れ、
1950年になってからでした。
第2次大戦中、
クナッパーツブッシュとベルリン・フィルの結びつきは、
ナチの命令とはいえども強くなり、
当時のドイツ友好国や占領地域へコンサートツアーを行ったり、
ベルリンでの定期演奏会のほかにも、
フルトヴェングラーやクレメンス・クラウスの代役をこなしています。
ドイツでの最大の指揮者はフルトヴェングラーでしたが、
クナッパーツブッシュはその次くらいにランク付けされていました。
なにより、戦時下のベルリンで聴衆が期待する指揮者の一人でした。
auditeボックスの演奏録音は、
セッション録音では幾分客観的な演奏ながら、
どれも素晴らしいというより凄まじく、
シューベルト/「未完成」の破壊的な暗さ、
ブルックナー/交響曲第9番でのオーケストラの熱気に包まれた暴走振り、
コムツァーク/「バーデン娘」では、
明るい曲のはずが大感動させられたり、
チャイコフスキー/「くるみ割り人形」の「花のワルツ」の大迫力など、
おそらく当時でしか、なしえなかった聞き所が満載です。
モノラルですが、年代的に考えて録音は優秀です。
特にブルックナー第9番のセッション録音の方には、
すでにソヴィエトによる西ベルリン封鎖は終わっていたとはいえ、
まだ緊張は続いていたようで、
録音会場の上空を通過する輸送機の爆音が聞こえたりします。
あ、そうそう、ブルックナー/交響曲第9番はレーヴェによる初版の演奏で、
第3楽章で驚かれること請け合いです。
クナッパーツブッシュは今年没後50年を迎えます。
後のDECCAやWESTMINSTERのステレオ録音も素晴らしいですが、
ぜひ、クナッパーツブッシュの
貴重なライヴ音源を聞かれることをお薦めします。