ベートーヴェン/交響曲第8番って、
それほど積極的に聞こうという人は少ないのではないでしょうか?
第7番の沸き立つような交響曲と、
祝典的な第9番という二つの大交響曲の間に挟まれているということもありますが、
ベートーヴェンのステレオタイプの見方ともいえる、
「苦悩から歓喜へ」という曲運びではなく、
最初から最後までベートーヴェンの哄笑が聞こえてくるような、
とてつもなく明るい交響曲だからかもしれません。
それに、他の楽曲のおまけ扱いされているようなところもあり、
4楽章全体としても演奏時間は短いですし…。
ところが、
交響曲第8番をツボにはまった演奏で聞くと、
実はとてつもない名曲であることが理解できます。
普通のおとなしい上品な演奏では、
第8番の魅力は開示できないのかもしれません。
店長はハンス・クナッパーツブッシュの大ファンであることから、
それほど上品ではない第8番の演奏をよく聞いてきました。
その他、オットー・クレンペラーのセッション録音がスケールが大きく、
ステレオタイプの第8番の録音とは一線を画す「凄い」演奏が聞けます。
その上に、即物主義者であるはずのクレンペラーの演奏録音から、
あまり聞くことのできない豊かさが聞こえてきます。
最近、棚に埋もれていた、
ヘルマン・シェルヘンのライヴ盤第8番を引っ張り出して聞きました。
爆演、奇演として非常に有名な演奏録音です。
でも、シェルヘンの解釈自体、非常に真っ当で納得できるものです。
同じ録音は、
最近でもいくつかのレーベルから、
交響曲全集の形でリリースされ続けていますから、
割とかんたんに入手できます。
店長が持っているのはヴァーン・メディアというレーベルの、
最初に出た全集のうちの1枚です。
ヴァーン・メディア盤は交響曲全集ではなく、
1枚1枚、バラでリリースされていました。
第8番は第4番とカップリングされ、
第4番も凄い演奏録音で聞き応え充分ですが、
第8番には驚愕しました。
スイス、ルガノのイタリア語放送管弦楽団の演奏は、
交響曲全集全体でお世辞にも上手いとは言えず、
日本のレベルの高いアマチュアオーケストラの方が
上手いのではないかと思えるほどです。
それでも、
第8番でのシェルヘンの快速テンポにしっかりとついてゆきます。
シェルヘンの掛け声や床を踏み鳴らす音も随所で聞こえます。
その上で、あちこちに通常の第8番を聞いているときには聞こえない、
肩透かしを食らうような情感が忍び込んでおり、
音楽に大変な深みを感じさせる演奏録音になっています。
快速演奏ながら、
クナッパーツブッシュやクレンペラーとはまた違う、
第8番が本来持つスケールの大きさや情感の豊かさ、
音楽の深さをを聞かせてくれます。
傷の無い、いわゆる安全運転の名盤を嗜好される方には、
トンデモ演奏の筆頭でしょう。
でも、音楽に込められたに大きなメッセージ聞く、
ということでは、多少(けっこうあちこち)、演奏に傷はあっても、
シェルヘン盤の意味は大きいと思います。